ヒント:クラウドサインの狙う1兆円規模の市場において、考えられる今後の戦略は以下の3つ。
(1)●●の底上げ
(2)●●業界での電子契約サービスのシェア獲得
(3)●●が多い業界へのアプローチ
国内の電子契約サービス事業は、弁護士ドットコムが運営する「クラウドサイン」とGMOグローバルサイン・ホールディングスの「GMOサイン」の2大事業者が激しく競争している状況です。
以前は、クラウドサインが契約社数等でGMOサインより有利な状況でしたが、直近ではGMOサインがYoY+100%を超える契約社数を獲得する等、徐々にクラウドサインに迫りつつあります。
しかし、クラウドサインも2022年に契約管理サービス、2023年に契約レビューサービスの提供を開始する等、電子契約サービス関連の市場シェアを広げるためのサービス展開を進めています。
前回取り上げた際は、GMOサインはみずほ銀行と提携、クラウドサインはSMBCとの合同会社「SMBCクラウドサイン」における「脱・ハンコ!キャンペーン」する等パートナー戦略を大きく打ち出していました。
Q.電子契約比較:クラウドサインとGMOサイン、激化する国内市場の競争を制するのはどちら?
その後、2022年5月18日に改正宅地建物取引業法が改正され、不動産の取引時(売買・賃貸等)でも電子契約ができるようになり、市場はより拡大しています。
今回の記事では、クラウドサインを中心にして、前半に直近の弁護士ドットコムの連結とクラウドサイン事業の業績を解説した上で、「クラウドサイン狙う1兆円規模となる電子契約市場」と「今後の考えられる戦略」を考察していきます。
この記事では、1ドル=150円として、日本円も併せて記載しています。
直近のクラウドサインの業績
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上図は、弁護士ドットコムの事業別の売上高の推移です。
2024年3月期 3Q(2023年10月~12月)の弁護士ドットコムの連結売上高は、30.7億円、YoY+38.6%と右肩上がりに伸びています。
売上高が大きく伸びた背景としては、判例検索サービスを提供するエル・アイ・シーがグループジョインし、その売上高が追加になっていることが挙げられます。
もしエル・アイ・シーがグループ参画を考慮していない場合だと、連結売上高は、26.9億円、YoY+21.2%となります。
同期間のクラウドサインの売上高(上図の青部分)は、14.2億円、YoY+34.6%と右肩上がりで成長しています。
直近数年で見ると、クラウドサイン事業の総売上高に対する構成比は次のように大きくなっています。
⚫️直近数年のクラウドサインの売上構成比の推移
・2022年3月期 3Q:41.8%
・2023年3月期 3Q:48.9%
・2024年3月期 3Q:52.8%
※2024年3月期 3Qの構成比はエル・アイ・シーのグループ参画の売上影響なしの場合の数値
エル・アイ・シーのグループ参画による売上影響を除くと52.8%と、弁護士ドットコムの売上高の過半数を占めていることも分かります。
ここまでは、直近の弁護士ドットコムの連結とクラウドサイン事業の業績を解説してきました。
ここから記事の後半では、競合であるGMOサインの業績やクラウドサインの狙う1兆円規模の市場を解説をした上で、考えられる3つの戦略を考察していきます。
この記事は、電子契約関連サービスに従事している方や事業戦略に関心がある方に最適な内容になっています。
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・競合のGMOサインの業績・クラウドサインのビジネスモデル・クラウドサイン/GMOサインの利用推移・クラウドサインが狙う1兆円規模の市場とは?・クラウドサインの3つの営業戦略・競合であるGMOサインの戦略は?・今後のクラウドサインの戦略は?・まとめ
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Q. クラウドサインの狙う1兆円規模の市場において、考えられる今後の3つの戦略とは?の答え
(1)ARPU(顧客単価)の底上げ
(2)不動産業界での電子契約サービスのシェア獲得
(3)アナログな契約業務が多い業界へのアプローチ
それでは、競合のGMOサインの業績を見ていきましょう。
競合のGMOサインの業績
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上図は、GMOグローバルサイン・ホールディングスの事業別の売上高の推移です。
クラウドサインの競合である、電子認証・印鑑事業の売上高を見ていきます。
2023年 Q4(2023年10月~12月)の電子認証・印鑑事業の売上高は、29.4億円、YoY+18.5%と伸びています。
同期間のクラウドサインの売上高は前述のとおり14.2億円なので、売上高の規模は、GMOグローバルサイン・ホールディングスの電子認証・印鑑事業の方が大きいです。
しかし、この電子認証・印鑑事業には、電子契約サービス以外(GlobalSign、GMOトラスト・ログイン)の売上も含まれており、その構成比は開示されていないため、クラウドサインとGMOサインの電子契約サービスの売上高の規模の正確な比較は難しいところです。
⚫️GMOグローバルサインの電子認証・印鑑事業の提供サービス
・GMOサイン
電子契約サービス、クラウドサインの同様のサービス。
・GlobalSign
インターネットの身元証明機関 電子認証局(SSLサーバ証明書提供サービス)
・GMOトラスト・ログイン
1度のユーザー認証で複数のサービス利用が可能になる「シングルサインオンサービス」
クラウドサインのビジネスモデル
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上図は、クラウドサインの売上高の推移です。
クラウドサインの収益モデルは以下の3つです。
⚫️クラウドサインの収益モデル
・固定売上 = 有料導入企業数 × 1社あたり固定費用
・従量売上 = 有料導入企業数 × 1社当たり送信件数×送信単価
・スポット売上:導入コンサルティング等
現在のクラウドサインの売上構成比は、正確な数値は開示されていませんが、固定売上の割合が多く、続いて従量売上・スポット売上額の順になっていることが分かります。
一般的には、従量売上はリカーリング売上に含まれませんが、クラウドサインでは、契約送信が安定的に発生し継続的に売上が見込めることから、リカーリング売上としていると考えられます。
クライドサインの従量課金は、1通220円の課金となっており、契約の送信件数の多い大企業顧客・自治体等の顧客獲得に力を入れている点がポイントです。
次は、クラウドサインとGMOサインの利用推移を見ていきます。
クラウドサイン/GMOサインの利用推移
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クラウドサインは、2022年以降は、2022年1月-3月、2023年1月-3月の期間のみ契約社数を公開しており、その他の期間は非開示となっています。
上図は、クラウドサインとGMOサインの契約社数の推移です。
クラウドサイン、GMOサインのどちらも右肩上がりで伸びており、直近ではそれぞれ以下の契約社数です(2023年1月-3月時点)。
⚫️2023年1月-3月時点の契約社数
・クラウドサイン:175万社(YoY+32.5%)
・GMOサイン:125.6万社(YoY+113.5%)
このようにクラウドサインの契約社数は堅調に伸びていますが、それ以上にGMOサインの契約社数の伸び率が高いため、次の2024年1月-3月の決算発表時には、両社の契約社数僅差になっている可能性が高いでしょう。
次は、クラウドサインとGMOサインの契約の送信件数を見ていきます。
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クラウドサイン、GMOサインのどちらも伸びていますが、2022年7月-9月のタイミングで
クラウドサインの送信件数はGMOサインに追い抜かれ、その後さらにその差は拡大していることが分かります。
直近の2023年10月-12月の送信件数は次のようになっています。
⚫️2023年10月-12月時点の契約社数
・クラウドサイン:209万件(YoY+37.5%)
・GMOサイン:334.7万件(YoY+96.0%)
一見、GMOサインの方が送信件数および伸び率が高く見えますが、GMOサインは学修歴証明書の発行、自治体の通知書の電子交付等も含めて、電子契約だけでなく、電子署名も含めた送信件数を戦略的に拡大させているため、参考値として見る必要があるでしょう。
クラウドサインが狙う1兆円規模の市場とは?
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上図は、クラウドサイン事業戦略をまとめたものです。
クラウドサインは契約締結サービスとして有名ですが、2022年に契約管理サービス、2023年に契約レビューサービスの提供も開始しています。
それらに加えて、参入を検討している契約作成の領域も含めると、電子契約サービス市場全体で1兆円規模の市場に成長するとクラウドサインは見ています。
この戦略の裏付けとして、2023年6月に、クラウドサインを運営する弁護士ドットコム執行役員の小林氏は、次のように契約業務のフローに沿った新しいサービスの提供を準備していることを明言しています。
今後の事業計画としても、現行のクラウドサインは「契約締結」から「契約管理」までをサービスとして提供しているが、決算発表ですでに公表している「契約レビュー」を新たなサービスとして提供することに加え、さらなるリーガルテック関連サービスの提供を計画しているという。
(引用)弁護士ドットコム、クラウドサインを軸にした“契約ライフサイクルマネジメント”を実現へ
加えて、法務省が「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」というAIを用いたサービス提供に関してのガイドラインを2023年8月に公表しました。
このガイドラインが公開されたことで、弁護士ドットコムの代表取締役社長兼CEOの元榮氏は「安心、安全で、また誰もが簡単に利用できるサービスを展開できるようになる」とコメントし、AIを用いた契約領域のサービスを事業開発をしていくことを明らかにしています。
弁護士法第72条に関するガイドライン公表に伴い、 6領域21ビジネスの事業開発を開始 - 本領域に挑戦したい弁護士・エンジニアの採用、企業投資を加速 -
リーガルテックのサービスを提供していく上で、今までは弁護士法第72条にて解釈が分かれることもありましたが、直近で内閣府規制改革推進会議と法務省を中心にしてルール整理がされ、ガイドラインが公表される等、ビジネス環境も整ってきています。
競合であるGMOサインの戦略は?
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前述のように、クラウドサインは「契約ライフサイクルマネジメント」のビジネスモデルを目指していますが、競合のGMOサインの戦略はどうなっているのでしょうか。
GMOサインも、同様に顧客企業数の増加・顧客の単価向上などに取り組んでいますが、特にクラウドサインと異なる点としては、「医療データや鑑定書等、契約書以外の領域にも電子署名技術を活用し、領域を広げている」ところがポイントと言えます。
このようにサービスの利用領域を広げることで「従量売上(有料署名数)を拡大する戦略」を進め、今後さらに展開できる領域を広げようとしています。
今後のクラウドサインの戦略は?
競争が厳しくなっていく電子契約業界の中で、クラウドサインが今後取り組むと考えられる戦略について、考察していきます。
(1)ARPU(顧客単価)の底上げ
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IRに記載されている各社の売上高は、四半期単位のため、3分の1にして、単月あたりのARPUを算出しています。
上図はクラウドサイン、DocuSign、GMOサインの3社のARPUの比較です。
クラウドサインは、DocuSign、GMOサインどちらの企業よりもARPUが低く、特にDocuSignのARPUはクラウドサインの約145倍、同じ条件での比較のGMOサインでも、クラウドサインの1.2倍のAPRUであり、ARPUの伸び余地があると考えられるでしょう。
クラウドサイン・GMOサインは無料版利用者数も含んだ企業数ですが、DocuSignは、有償版利用企業数の数値です。
ARPUを伸ばす余地として、1社あたりの送信件数が挙げられます。
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IRに記載されている各社の送信件数は、四半期単位のため、3分の1にして、単月あたりの送信件数を用いて計算しています。
時期要因等で、企業が送信する契約件数は変動がある場合もあり得ますが、GMOサインの方がクラウドサインと比べて1社あたり2.3倍(+0.3件)多い送信件数となっています。
このような送信件数の差がある背景には、送信件数あたりのコストの差が考えられます。
⚫️1通あたりの送信金額(有料プラン)
クラウドサイン:220円
GMOサイン:110円
GMOサインの1通あたりの送信料金は、クラウドサインの50%の水準であるため、契約の送信件数が多い企業はコスト面から、クラウドサインよりもGMOサインを導入する可能性が高いと考えられます。
また、クラウドサインは2015年10月からサービス提供しており、休眠アカウントも一定存在していると考えられる点も、1社あたりの送信件数が低い理由の1つと考えられるでしょう。
(2)不動産業界での電子契約サービスのシェア獲得
2022年5月18日に改正宅地建物取引業法が改正され、不動産の取引時(売買・賃貸等)の契約が電子契約が可能になりました。
リーガルデザインニュース 2022年5月23日号 —不動産取引の完全電子契約化が解禁
不動産業界では、電子契約サービスがが広がる以前の自治体と同様に今までアナログな契約しかできなかった状況ですが、デジタル化することで効率的に契約ができるようになるため、特に大手不動産会社を中心としての顧客を獲得するための動きが進んでいくと考えられます。
(3)アナログな契約業務が多い業界へのアプローチ
前述の不動産業界以外にも電子契約が遅れている業界があります。2022年にアドビが行った調査によると、不動産業界に並んで書面での契約が次の業界で多くなっています。
●書面での契約している業界と割合
・卸売り・小売業:72.6%
・電気・ガス・熱供給・水道業:70.5%
大規模な調査ではないものの、アナログな契約が多い業界と考えられるため、電子契約が広がる余地はあると言えるでしょう。
まとめ
今回は、直近の弁護士ドットコムの連結とクラウドサイン事業の業績を解説し、クラウドサインの狙う1兆円規模の市場と考えられる戦略等を考察しました。
要点をまとめると以下になります。
・2024年3月期 3Q(2023年10月~12月)クラウドサインの売上高は、14.2億円、YoY+34.6%と右肩上がりで成長している。また弁護士ドットコムの総売上高に対するクラウドサイン事業の構成費は年々大きくなっている。
・クラウドサインが狙う1兆円規模の市場は、すでにクラウドサインがサービス提供している契約締結・管理・レビューに加えて、参入を検討している契約作成の4つの領域である。
・考えられる今後の3つの戦略は、以下の3つ。
(1)ARPU(顧客単価)の底上げ
(2)不動産業界での電子契約サービスのシェア獲得
(3)アナログな契約業務が多い業界へのアプローチ
今後のさらに市場が伸びていく電子契約領域に、引き続き注目していきたいと思います。