米著名VCの2023年のトレンド予測を分類してみた

この記事はゆべしさんとの共同制作です。

決算が読めるようになるノート 決算解説
米著名VCの2023年のトレンド予測を分類してみた
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本日は、米国の著名VC(Venture Capital)の2023年のトレンド予測を見ていきます。

一般的に、VCは将来有望なスタートアップを選定して投資を行い、投資先のスタートアップが成長し、取得した株式を売却することで大きなリターンを得るビジネスモデルを展開しています。そのため、VCは時代の先を読んで投資することが求められます。

今回は、そんな時代の先を読むVCによる2023年のトレンド予測を、以下の4つの観点で分類してわかりやすく解説します。

(1)金利
(2)スタートアップの資金調達環境
(3)web3
(4)新世代のSaaS

※1年前の2022年版のトレンド予測記事も、興味のある方はぜひご覧ください。

米著名VCの2022年のトレンド予測を詳しく分類してみた

この記事では、1ドル=100円($1 = 100円)として、日本円も併せて記載しています。

今回参考にするVC

今回参考にするVCは、(1)Redpoint、(2)Union Square Ventures、(3)a16zの3社です。それぞれ簡単に紹介します。

(1) Redpoint/Tomasz Tunguz氏
Redpoint Venturesは1999年にカリフォルニア州のメンローパークで創業され、決算が読めるようになるノートでおなじみのTomasz Tunguz氏はRedpointのパートナーです。

(2) Union Square Ventures/Fred Wilson氏
Union Square Venturesは2003年に創業されたニューヨークの老舗VCであり、Fred Wilson氏はTwitter、Twillio、Coinbase、Stripeなどへの初期投資で知られるUnion Square Venturesの共同創業者です。

(3) Andreessen Horowitz
Andreessen Horowitz(以後、a16zと記載)は、2009年に創業された米国を代表するトップクラスのVCで、特にweb3領域への積極的な投資を行っています。

(1)金利:金利上昇が止まり、ソフトウェア企業の株価はやや改善

https://sgp.fas.org/crs/misc/IF10477.pdf

上図は、米国の1960年~2022年までの年間のインフレ率を表したもので、2022年は記録的なインフレの年となりました。

このインフレ抑制のために、米国の中央銀行制度であるFed(Federal Reserve System)は金利の引き上げを行ったことで、テック企業を中心とした多くの企業の株価は低迷しました。

ちなみに、日本はというと、金利の引き上げが想定されているものの、外圧的なインフレに対して賃金上昇が伴っていない(むしろ実質的な賃金は減少)こともあり、記事執筆時点では長期金利の変動幅を0.25%から0.50%に緩和するだけに留まっています。

参考:実質賃金3.8%低下、インフレ加速で8年6カ月ぶり大幅減=11月毎月勤労統計

参考:長期金利の上限0.5%に、黒田総裁「利上げではない」

The Fed tames inflation. We exit 2023 with inflation below 2.5% but a Fed Funds rate of 5%. Forward software multiples touch 7.0x forward, up from 5.8x today, on the relatively strong growth rates of most public software.

引用:Five Predictions for 2023

このような金利の引き上げに対して、RedpointのTomasz Tunguz氏は、Fedの金利の引き上げによって2023年のインフレ率は2.5%以下に緩和し、ソフトウェア企業のマルチプルは、現在の5.8倍から7.0倍に増加すると見立てています。

ちなみに、Tomasz Tunguz氏は以下にて、ソフトウェア企業のマルチプルを予測する計算式を算出しています。非常に興味深いので、関心がある方はぜひご覧ください。

How to Predict the Forward Multiple of a Software Company

Interest rates will level off in the first half of 2023 and I think there is a good chance of a “soft landing” or a very mild recession in 2023.

引用:What Will Happen In 2023

また、Union Square VenturesのFred Wilson氏も、2023年前半には金利の上昇は止まり、ソフトランディング(非常に穏やかな景気後退)となる可能性が高いと見立てています。

(2)スタートアップの資金調達環境:基本的にシビア

https://www.photo-ac.com/main/detail/24332753

次に、未上場スタートアップの資金調達の市況について、「基本的にシビアとなる」と予測しています。

一部の企業を除き、未上場スタートアップの企業価値(バリュエーション)は上がりにくく、ダウンラウンド(増資時の株価が前回増資時の株価より下回ること)での資金調達の割合は大幅に増加すると見立てています。

The fundraising market thaws, but at materially lower prices than the first half of 2022. The early stage market prices seeds at $10-15m post & Series As at $50-60m post (with about $500k in ARR). The mid-stage market for Bs, Cs, & Ds rebounds but chaos reigns.

引用:Five Predictions for 2023

具体的には、Tomasz Tunguz氏は、未上場スタートアップの資金調達における市況は、2022年前半よりも低いバリュエーションで推移すると予測しており、資金調達のラウンド別に以下と見立てています。

・シードラウンド:1,000~1,500万ドル(約10~15億円)程度
・シリーズAラウンド:5,000~6,000万ドル(約50~60億円)程度
 このときのARRは約50万ドル程度(約5,000万円)
・シリーズB~Dラウンド:市場は回復するものの混乱が続く

次に、Fred Wilson氏の見方も見てみましょう。

Good businesses with product market fit, positive unit economics, and strong leadership teams will raise capital although it will be at the new normal in terms of valuation. I believe that “new normal” is more or less where we were in 2015 where seed rounds were done around $10mm, A rounds were done around $15mm to $25mm, B rounds were done around $25mm to $50mm, and growth rounds had a cap at 10x revenues.

引用:What Will Happen In 2023

Fred Wilson氏はPMF(Product Market Fit:プロダクトが適切にマーケットニーズを満たしている状態)し、ユニットエコノミクスが良好で、強力なチームを持つ優れた事業のバリュエーションはニューノーマルになり、資金調達のラウンド別に以下と見立てています。

・シードラウンド:1,000万ドル前後(約10億円)
・シリーズAラウンド:1,500~2,500万ドル前後(約15~25億円)
・シリーズBラウンド:2,500~5,000万ドル前後(約25~50億円)
・グロースラウンド:売上マルチプルで10倍前後(2015年とほぼ同程度)

スタートアップの資金調達におけるバリュエーションについて、2人の見解は直近の積極的な投資フェーズと比較して基本的にシビアになることが伺えます。

(3)web3:プロジェクトの健全性が重視される

次に、web3に対する見解を見ていきましょう。

https://www.google.com/finance/quote/BTC-JPY?sa=X&ved=2ahUKEwiyxNfX_7f8AhVHa94KHeS1BhMQ-fUHegQIBhAe

2022年は、TerraやFTXの事件等によって、個人投資家の中でも被害を被った人もいるでしょう。このような市況の中で、米国の著名なVCは、2023年のweb3をどのように予測したのでしょうか?

Most categories slow down meaningfully, including Defi. More than 100 web3-enabled games launch. Virtual wallets ensconce themselves into web2 applications. Marketing becomes the first broad use case of web3 after Defi, catalyzed by the death of the third-party cookie.

引用:Five Predictions for 2023

Tomasz Tunguz氏は、DeFiを含む多くのカテゴリで成長速度が大幅に減速する一方で、100以上のweb3対応のゲームのローンチやバーチャルウォレットがweb2のシステムに組み込まれると予測しています。

また、マーケティング領域はサードパーティーCookieの廃止によって、DeFiに次ぐユースケースとして注目されると見立てています。

web3において、web2のCookieと代わるとなる技術は何か、以下の記事で解説していますので参考にしてみてください。

【web3】Q. web3時代のユーザー獲得マーケティングでCookieの代わりになるものは?

Like the startup sector more broadly, web3 will go through a triage of sorts in 2023. Projects and protocols that have found product market fit, have real token economics, and ship new features quickly will attract new interest and rise in value. But many web3 projects have not found product market fit, have weak or no token economics, and do not execute well and I think we will see many of them continue to flounder and fail in 2023.

引用:What Will Happen In 2023

次に、Fred Wilson氏は、PMFを達成し、トークンエコノミクスを成立させ、迅速な新機能追加ができるプロジェクトは大きく関心を集める一方で、多くのweb3プロジェクトは苦しい局面となると予測しています。

また、2022年前半はweb3の資金調達が相次いだことで、言葉を選ばずに言うと中身が十分に伴っていないプロジェクトも資金調達しやすい市況でしたが、2023年はそのプロジェクトの健全性が重視されるようになると見立てています。

https://a16z.com/2022/12/15/big-ideas-in-tech-2023/

We’re on the cusp of unlocking a new generation of web3 native games that will be fun, broadly appealing, and uniquely enabled by blockchain technologies.

引用:Big Ideas in Tech for 2023: An a16z Omnibus

次に、a16zのパートナーもweb3ゲームに注目していることを明かしています。また、その他モバイルペイメント、ゼロ知識証明関連の技術、譲渡不可能なトークン(Non-Transferable Tokens)、分散エネルギー等も注目領域であるとしています。

FTX等の事件は悲惨なものでしたが、ブロックチェーン技術そのものの問題ではなく、市場環境の未整備に起因するものであり、新興市場ではこのような問題はつきものでしょう。今後の発展に期待です。

(4)新世代のSaaS:AIや機械学習による自動化・効率化を行うSaaSに注目

最後に「SaaSビジネス」を見ていきます。

SaaSは2010年代に最も大きく成長した領域の1つであり、米国では様々な市場でバーティカルSaaS(業界特化型のSaaS)が生まれ、一定成熟してきています。日本でも、建築業界のアンドパッドや薬局業界のカケハシなどのバーティカルSaaS企業が増えています。

そのような環境の中で、2023年はSaaSに新しいトレンドが生まれるかもしれません。

ML propels SaaS into a massive second wave that increases workers’ productivity measurably. Machine learning models predict code, synthesize images, author blog posts reducing composition time by a factor of 2 or 3. Users grow accustomed to this very quickly & ML becomes a requisite feature in most workflow SaaS.

引用:Five Predictions for 2023

Tomasz Tunguz氏は、機械学習はSaaSを大規模な第二の波へと押し上げ、労働者の生産性を大幅に向上させると予測しています。

Since the shift to cloud over a decade ago, first-gen SaaS platforms have become outdated. Meanwhile, user demands have continuously increased. In the coming year, I expect we’ll see a new generation of SaaS platforms emerge to meet those heightened expectations for how software should work.
(中略)
These solutions will be data-native; the user experiences will be 10x better, with embedded automations and intelligence that trivialize the time-consuming workflows we still perform manually today. In turn, these next-gen solutions are likely to compete with the first-gen systems of record that might appear engrained, such as Salesforce, Workday, Zendesk, and Anaplan.

引用:Big Ideas in Tech for 2023: An a16z Omnibus

a16zのZeya Yang氏も同様に、人工知能(AI)や機械学習(ML)による自動化・効率化を行う新世代SaaSに注目しています。

また、この新世代SaaSはSalesforceやWorkday、Zendeskなどのいわゆる「老舗SaaS企業」と競合する可能性があると予測しており、今後の動向が気になります。

まとめ

ここまで、米国の著名VCの2023年のトレンドを見てきました。

米国の著名なVCの2023年トレンド予測は以下の通り

(1) 金利:2022年は記録的なインフレの年で、これに対処するために行われた金利引き上げの結果、テック企業の株価が低迷したが、2023年はインフレ率が緩和し、金利上昇が止まることで、ソフトウェア企業のマルチプルは回復する

(2) スタートアップの資金調達環境:バリュエーションは上がりにくく、ダウンラウンドでの資金調達の割合が大幅に増加する

(3) web3:2022年のような破竹の勢いは失われるものの、トークンエコノミクスなど健全性が担保されているプロジェクトには注目が集まり、マーケティングやモバイルペイメント等の技術領域の発展が期待される

(4) 新世代のSaaS:人工知能や機械学習による自動化・効率化を行う新世代SaaSに注目が集まる

この予測がどこまで2023年の市場に当てはまるのか、今後決算書や業界分析から読者の皆様と見ていきたいと思います。

《決算が読めるようになるノート》

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