Q. 世界最大級の暗号資産取引所Coinbaseに起きた収益構造の変化とは?

A. これまでCoinbaseの売上は、暗号資産取引所の運営による「取引手数料」が大半を占めていた一方、2023年2Qから「その他収益」が過半数を占める結果となり、その他収益の中でも金利収入が大きく伸びている。

決算が読めるようになるノート ビジネスモデル
Q. 世界最大級の暗号資産取引所Coinbaseに起きた収益構造の変化とは?
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A. これまでCoinbaseの売上は、暗号資産取引所の運営による「取引手数料」が大半を占めていた一方、2023年2Qから「その他収益」が過半数を占める結果となり、その他収益の中でも金利収入が大きく伸びている。

世界最大級の暗号資産取引所を運営する米国大手のCoinbase(以下、コインベース)の収益構造が変化しています。

これまで決算が読めるようになるnoteでも取り上げてきた通り、一般的な暗号資産取引所は、暗号資産の売買に応じた手数料による収益が中心です。

しかしながら、2023年2Qのコインベースの収益構造をよく見ると、この手数料収益の割合が縮小し、反対にその他収益の割合が過半数を占めていました。

この記事は、世界最大級の暗号資産取引所を運営するコインベースに何が起こっているのか、わかりやすく解説しています。無料で公開していますので、ぜひ最後までご覧ください。

この記事では、1ドル=100円($1 = 100円)として、日本円も併せて記載しています。


コインベースの売上は底打ちし徐々に上昇へ

まずは、コインベースの四半期売上について見てみると、2021年4Qの$2,490M(約2,490億円)をピークに減少したものの、その後2022年4Q以降から徐々に回復していることが分かります。

コインベースの収益源の1つである取引手数料について、個人と企業別に見ると、個人・企業ともに全盛期であった2021年4Qと比較して、2023年2Q時点では20%以下の水準まで下落しています。

良くも悪くも、取引手数料は「取引回数」や「取引金額」に比例するため、暗号資産の価格の変動(ボラティリティ)に大きく依存する性質があります。それゆえ、上図のように売上は激しく変動してしまいます。


取引手数料に依存しない収益構造に

次に、コインベースの事業別の売上構成として、「取引手数料(Total transaction revenue)」と「その他収益(Total subscription and services revenue)」に分けて見ると、これまで取引手数料が中心でしたが、2023年2Qからその他収益が過半数を占めています。

図の黒色の割合が2022年の後半から大きく増え始めており、取引手数料中心の収益構造への依存から脱出しつつあることが分かります。

次章からは、この「その他収益」について、深掘りして見ていきます。


取引所だけでないコインベースのビジネスポートフォリオ

コインベースのその他収益を細分化して見ると、2022年3Qから上図緑の金利収入(Interest Income)が大きく成長し、2023年2Q時点では$201M(約201億円)でYoY+509%と、大幅に成長しています。

https://fred.stlouisfed.org/series/FEDFUNDS#

このInterest Income(金利収入)の大幅な成長は、上図に示される米国の金利上昇のタイミングとほぼ一致しています(コインベースの2022年3Qに該当する2022年7月頃から金利が上昇お)。

コインベースの金利収入は、(1)$1.8B(約1,800億円)のUSDCと、(2)$3.8B(約3,800億円)の顧客の法定通貨、を保有していることによる金利収入で、特にUSDCによる金利収入が全体の約75%を占めています。

USDC(USD Coin):価格が米ドルと連動して値動きをするステーブルコインと呼ばれる暗号資産。

ただ、今後の米国の政策金利次第で、この金利収入は大きく変動する可能性が十分に考えられます。そのため、金利収入以外のその他収益の収入源についても見ていきましょう。


ブロックチェーンステーキング収入

https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/vBCVcWUyvyM

金利収入の次に大きな収益だったのは、「ブロックチェーンのステーキング収入(Blockchain rewards)」です。

ステーキングとは、所有している暗号資産をネットワーク上で管理することで、該当のブロックチェーンネットワークから報酬を得ることができる仕組みです。コインベースは個人や法人がイーサリアムを中心としたブロックチェーンにステーキングすることを可能にしています。

コインベースのステーキングは、個人の場合には一旦自社の売上として総額を計上した後に個人に報酬を配分、法人の場合には手数料のみを売上として計上している。

前述の通り、取引手数料は暗号資産のボラティリティによって大きく変動するリスクがあります。しかし、一般的にステーキングは市場規模に比例して売上が大きくなるため、取引手数料よりも安定した収益源になりえます。そのため、コインベースなどの暗号資産取引所にとっては、より健全な収益と言えるでしょう。


サブスクリプション収入

次に、コインベースのサブスクリプション収入について見てみましょう。

https://www.coinbase.com/one

コインベースは「Coinbase One」という月額$29.99(約2,999円)の課金サービスを2023年5月に発表しました。記事執筆時点では米国や英国などで利用可能とのことで、日本で利用することはできませんが、今後より多くの国で利用可能になるそうです。

Coinbase Oneは、月額料金を支払うことで、取引手数料の無料化、ステーキング報酬の増額、優先的なサポートなどのメリットがあります。

2023年2Q時点ではCoinbase Oneの売上は公開されていませんが、前述の通りボラティリティの高い取引手数料による収益以外に、サブスクリプションサービスのような安定した収益源を確保する必要があるため、今後注力サービスとなることが想定されます。


今後は自社ブロックチェーンの運用収入にも期待

https://www.coinbase.com/blog/introducing-base

また、コインベースは新しいサービスとして、2023年8月9日に独自のブロックチェーン「Base」をローンチしました。

Baseは「レイヤー2」と呼ばれる、イーサリアムのスケーリング(イーサリアム上で取引を行うとコストや時間が多くかかるため、別のブロックチェーン上で取引を行った後、それらの取引の正当性を証明する情報をイーサリアムに保存する仕組み)を目的としたブロックチェーンです。

このように、開発者とユーザーのための基盤を提供することで、今後の市場の拡大と共にBaseの利用が進み、Baseの取引手数料などといった新たな収入の柱ができる可能性があります。


まとめ

ここまで、世界最大級の暗号資産取引所を運営するコインベースの決算内容や収益構造の変化について見てきました。

・これまでコインベースの収益の柱であった取引手数料は全盛期であった2021年4Qと比較して、2023年2Q時点では20%以下の水準まで下落しており、2023年2Qからその他収益が全体売上の過半数を占めている。

・その他収益(Total subscription and services revenue)のうち、2022年3Qから金利収入(Interest Income)が大きく成長している。ただ、今後の米国の政策金利次第で、この金利収入は大きく変動する可能性が十分に考えられる。

・コインベースは安定した収益源の確保のために、(1)ブロックチェーンのステーキング収入や、(2)Coinbase Oneといったサブスクリプション収入、(3)独自ブロックチェーンBaseのリリースなどに注力している。

暗号資産取引所の運営は、事業特性上かなりボラティリティが高い為、安定した収益源の確保が非常に重要な課題となるでしょう。

今後、コインベースの収益構造がどのように変化していくのか、引き続き注目していきたいと思います。


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