Q. Amazon・Appleなどコマース企業がコロナ終盤で苦戦している共通の要因とは?

A. Amazon, Apple, Shopifyなどのコマース企業が苦戦した共通の要因は以下の2つです。・共通する要因#1:サプライチェーン問題・共通する要因#2:人件費の高騰

決算が読めるようになるノート ビジネスモデル
Q. Amazon・Appleなどコマース企業がコロナ終盤で苦戦している共通の要因とは?
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A. Amazon, Apple, Shopifyなどのコマース企業が苦戦した共通の要因は以下の2つです。
・共通する要因#1:サプライチェーン問題
・共通する要因#2:人件費の高騰

この記事はゆべしさんとの共同制作です。

2021年11月時点で、東京でもコロナウイルスの新規感染者数が減少しており、世界的に経済活動が再開され始めています。

コロナ禍でオフラインからオンラインへの消費行動の変化が進んだことで、コマース企業を筆頭に、一部企業の業績が大きく成長しました。

しかし、経済の再開が進み、コロナ終盤と言える現在の市場環境で、実はコロナ禍で大きく成長したAppleやAmazon、Shopifyが苦戦しています。

この記事では、各社の最新(2021年7-9月)の業績を整理した上で、各社が苦戦している要因を分析し、共通の要因を整理します。Afterコロナの業績拡大に向けて、どのような障壁があるのか知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。

この記事では、1ドル=100円($1 = 100円)として、日本円も併せて記載しています。


Appleの2021年7-9月期の決算

Apple Reports Fourth Quarter Results(2021年10月28日)

Appleの2021年7-9月の四半期売上は$83.4B(約8.34兆円)でYoY+28.8%、営業利益は$23.8B(約2.38兆円)でYoY+61.0%、営業利益率は28.5%でした。

続いて、Appleの地域別の四半期売上と売上成長率は以下のとおりです。

・アメリカ:$36.8B(約3.68兆円)、YoY+19.9%
・ヨーロッパ:$20.8B(約2.08兆円)、YoY+23.0%
・中華圏:$14.6B(約1.46兆円)、YoY+83.3%
・日本:$6.0B(約6,000億円)、YoY+19.3%
・その他アジア:$5.2B(約5,200億円)、YoY+25.7%

売上の規模はアメリカとヨーロッパが大きいですが、売上成長率を見ると中華圏がYoY+83.3%と、他の地域と比較して圧倒的に急成長しています。

次に、Appleの製品別の四半期売上と売上成長率は以下のとおりです。

・iPhone:$38.9B(約3.89兆円)、YoY+47.0%
・Mac:$9.2B(約9,200億円)、YoY+1.6%
・iPad:$8.3B(約8,300億円)、YoY+21.4%
・ウェアラブル/ホーム/アクセサリー:$8.8B(約8,800億円)、YoY+11.5%
・サービス:$18.3B(約1.83兆円)、YoY+25.6%

これほどの規模であるにもかかわらず、売上と営業利益は前年同期比で着実に成長しています。特に、地域別・製品別の全項目で前年同期比でプラス成長を達成しており、一見すると好調に推移しているように見えます。

しかしながら、2021年7-9月の実績とアナリストの業績予想を比較してみると、冒頭で記載したように、Appleが苦戦している様子が見えてきます。

上図の通り、iPad、ウェアラブル/ホーム/アクセサリーとサービス以外の項目の売上は、アナリストの業績予想を下回っており、結果として、この四半期の全体売上はアナリストの予想から▲$1.5B(約1,500億円)下回っています。


Amazonの2021年7-9月期の決算

AMAZON.COM ANNOUNCES THIRD QUATER RESULTS(2021年9月30日)

Amazon badly misses on earnings and revenue, gives disappointing fourth-quarter guidance(2021年10月28日)

Amazonの2021年7-9月の四半期売上は$110.8B(11.08兆円)でYoY+15.3%、営業費用や配送インフラへの投資等によるコスト増で、営業利益は$4.9B(約4,900億円)でYoY▲21.7%でした。

事業カテゴリ別の四半期売上と売上成長率、これまでのトレンドを以下にまとめました。

・直販EC:$49.9B(約4.99兆円)、YoY+3%
→ここ数年で最も成長できなかった四半期。大きく苦戦。

・実店舗:$4.3B(約4,300億円)、YoY+13%
→コロナ禍ではマイナス成長だったが、Afterコロナで前年比2桁成長。

・マーケットプレイス:$24.3B(約2.43兆円)、YoY+19%
→直販EC同様に、成長率は鈍化。

・サブスクリプションサービス:$8.1B(約8,100億円)、YoY+24%
→Afterコロナでも安定的に成長しているが、若干成長率が鈍化。

・AWS:$16.1B(約1.61兆円)、YoY+39%
→超安定的な成長を続けており、成長率が加速。

・広告等その他:$8.1B(約8,100億円)、YoY+50%
→成長率は鈍化しているものの、直販ECやマーケットプレイスほどではない。

全ての事業カテゴリで、前年比プラス成長ではあるものの、主要事業である直販ECが大きく苦戦しており、その結果、Amazon全体の2021年7-9月の売上成長率はYoY+15%で、前年同期(2020年7-9月)の売上成長率YoY+37%と比較すると、成長が鈍化していることが分かります。

Amazonの2021年7-9月の実績とアナリストの業績予想を比較すると、EPS(Earnings Per Share:1株あたり当期純利益)や売上、2021年10-12月の売上予想において、Appleと同様にアナリストの業績予想を下回っています。


Shopifyの2021年7-9月期の決算

Shopify Q3 2021 Financial Results 。Conference Call(2021年10月)

Shopifyの2021年7-9月の四半期GMV(流通総額)は$41.8B(約4.18兆円)でYoY+35%でした。

同じ期間(2021年7-9月)のShopifyの四半期売上は$1.1B(約1,100億円)でYoY+46%でした。

GMVも売上も、共にYoY+40%前後の成長をしている一方で、コロナの影響が大きかった2020年4-6月~2021年1-3月のShopifyの成長率はYoY+100%前後であったことから、Shopifyの成長は大きくスローダウンし、コロナ前の水準に戻っていることが分かります。

Shopifyの2021年7-9月の実績とアナリストの業績予想を比較すると、EPSと売上の双方において、アナリストの業績予想を下回っています。Shopifyはコロナ禍で爆発的な急成長を遂げており、恐らくここ数年間でアナリストの業績予想を下回ったのは初めてだと思います。

ここまで、Apple、Amazon、Shopifyの2021年7-9月の決算情報と、アナリストの業績予想を比較してきました。各社の決算内容は、いずれもアナリストの業績予想を下回っており、コロナ終盤で苦戦していると言えるでしょう。

次章からは、各社の決算が不調だった要因分析していきます。


Appleの決算が不調だった要因

Appleの決算が不調だった要因は、「半導体不足によるサプライチェーンの逼迫」です。以下に、AppleのCEO、Tim Cookのインタビューを引用します。

“We had a very strong performance despite larger than expected supply constraints, which we estimate to be around $6 billion,” Cook told CNBC’s Josh Lipton. “The supply constraints were driven by the industry wide chip shortages that have been talked about a lot, and COVID-related manufacturing disruptions in Southeast Asia.”

引用:Apple sales miss expectations, Tim Cook says supply issues cost company $6 billion(2021年10月28日)

現在、世界的な半導体不足で多くの業界に影響が生じており、Appleも例外ではありません。また、コロナによる東南アジアでの製造プロセスの停滞が、半導体不足と併せてサプライチェーンを逼迫し、売上にすると$6B(約6,000億円)の影響額と推定されています。

仮に、機会損失となった売上$6B(約6,000億円)が計上されていれば、2021年7-9月の売上は$89.4B(約8.94兆円)となり、アナリストの業績予想$84.9(約8.49兆円)を大きく上回ります。


Amazonの決算が不調だった要因

Amazonの決算が不調だった要因は、「(1)消費行動のオフライン化、(2)労働力不足・人件費高騰、(3)サプライチェーンの制約・配送料の増加」の3つです。

Amazon is reckoning with decelerating sales growth as consumers go back to physical stores and the company faces supply chain challenges.

引用:Amazon badly misses on earnings and revenue, gives disappointing fourth-quarter guidance(2021年10月28日)

経済再開が進み、消費者はオンラインではなく実店舗での購買が進んだことで、ECを主要事業とするAmazonの業績に影響を与えました。

Amazon CEO Andy Jassy said the company expects to take on “several billion dollars” of extra costs in its consumer business in the fourth quarter as a result of labor shortages, higher employee costs, global supply chain constraints and increased freight and shipping costs.

引用:Amazon badly misses on earnings and revenue, gives disappointing fourth-quarter guidance(2021年10月28日)

また、労働力不足や人件費の高騰、世界的なサプライチェーンの制約、運賃・配送料の増加等により、2021年10-12月は数千億円の追加コストが発生すると予想しています。

Amazon said earlier this month it plans to hire 275,000 permanent and seasonal employees nationwide, in part to help deal with the holiday shopping rush. CFO Brian Olsavsky said last quarter Amazon was facing steep labor costs as it looks to hire and retain employees, including by doling out $3,000 sign-on bonuses and launching new perks like free college tuition.

引用:Amazon badly misses on earnings and revenue, gives disappointing fourth-quarter guidance(2021年10月28日)

Amazonは、労働力不足や人件費の高騰といった問題に直面しており、従業員の雇用と維持を進めるため、$3,000(約30万円)の入社ボーナスの支給や、大学の授業料の無料化など新しい特典を導入する取り組みを進めています。


Shopifyの決算が不調だった要因

Shopifyの決算が不調だった要因は、「(1)サプライチェーンの問題、(2)人件費・輸送費の高騰」の2つです。以下にShopifyのCFO、Amy Shaperoのインタビューを引用します。

The company also acknowledged that offline and online spending could be impacted by supply constraints as well as increased materials, labor, and shipping costs.

引用:Shopify notches first revenue miss in at least five years but stock still jumps(2021年10月28日)

Shopifyは、オフライン・オンライン問わず、供給の制約や材料費等のサプライチェーンの問題や、人件費・輸送費の高騰で影響を受けています。

次章からは、各社の決算が不調だった要因のうち、共通する以下の要因について、詳細に見ていきます。

共通する要因#1:サプライチェーン問題
共通する要因#2:人件費の高騰


共通する要因#1:サプライチェーン問題

コンテナ不足問題に関する情報共有会合 新型コロナが国際物流に与えた影響(2021年4月23日)

経済活動が再開され、消費者需要が回復する中で、多くの企業のサプライチェーンが逼迫しています。サプライチェーンの中でも、特に「物流」への影響が深刻で、コンテナ不足やターミナルの混雑等により、輸送コストの高騰や輸送遅延といった問題が発生しています。

上図は、株式会社野村総合研究所が発表した「新型コロナが国際物流に与えた影響」と題されたレポート中のスライドです。

貿易大国である中国からヨーロッパやアメリカへの海上運賃は、2020年後半から大きく高騰しています。これは海上輸送に限った話ではなく、航空輸送も同様に航空運賃は高騰しています。

また、2021年4月時点のアメリカ西海岸の主要2港であるロサンゼルス港とロングビーチ港では、コンテナ船の沖待ちやターミナル混雑のために、輸送遅延の状況が続いています。

このような物流の大混乱と物資不足への懸念が高まったことを受けて、バイデン政権はタスクフォースを設置し、港の稼働時間を拡大することで解決に努めているようです。


共通する要因#2:人件費の高騰

Labor Shortages and Increasing Labor Costs Post-COVID-19: How Future Hospitality Businesses are Going to Thrive?(2021年10月18日)

The Myth of Labor Shortages(2021年5月20日)

上図は、ウォールストリートジャーナルが作成したもので、横軸に2021年4月の週あたりの報酬額を、縦軸に同期間の退職率を定めています。平均時給が低く、退職率が高い左上の領域には、飲食店、レジャー・病院、小売などが該当します。

上図左のグラフは飲食業界・宿泊業の退職率を、右のグラフは飲食業界・宿泊業界の労働者の平均時給を表したものです。

コロナによるパンデミックが起きた2020年以降、上図左のグラフのように退職率が増加したことから、多くの人が職を失いました。政府はその対応策として、通常の失業手当に加えて週に$300(約30,000円)の上乗せ給付等の手厚い失業手当を開始しました。

その後、経済再開が進むにつれて、企業は労働力を求めて採用を進めていますが、上図のように、時給が上がっても退職率が増加していることから、充実した失業手当を受給した労働者の獲得は難しく、人件費の高騰や労働力不足に発展していると考えられます。

上図は、ニューヨークタイムズが作成した1960年以降の米国における企業の利益と労働者の賃金の推移を表したものです。

1960年から企業の利益と労働者の賃金は同じペースで増加していましたが、2000年以降、企業の利益は大きく増加したものの、労働者の賃金は比例して増加しているわけではないことが分かります。このことからも、労働者の賃金をもっと上げるべきという声もあります。

一方で、飲食業界の労働者の時給は、2021年5月時点で$15(約1,500円、アメリカの場合は顧客からのチップが上乗せされる)を超えているため、更に労働者の賃金を上げるのか?という声もあります。

このような人件費の高騰や労働力不足の問題は、既に政府による手厚い失業手当を受けている事実があることからも、簡単かつ早期に解決することは難しいでしょう。人件費の高騰問題は、しばらく多くの企業に影響を与えると考えられます。


まとめ

ここまで、AppleやAmazon、Shopifyの2021年7-9月の決算内容をもとに、アナリストの業績予想を下回った共通の要因を見てきました。

【共通する要因#1:サプライチェーンの問題】
・Afterコロナで経済再開が急速に進んだことで、物流に影響が生じている
・コンテナ不足やターミナル港の混雑により、輸送コストの高騰や輸送遅延が生じている

【共通する要因#2:人件費の高騰】
・コロナ禍で多くの人が職を失うも、政府による手厚い失業給付を実施
・経済再開に伴い労働力を求める企業が増加する一方で、手厚い失業給付を受給した労働者の獲得は難しく、労働力不足や人件費の高騰に繋がっている

BeforeコロナからWithコロナにかけて、オフラインからオンラインへの急速な消費行動の変化が進みましたが、その後、WithコロナからAfterコロナの現在は、今度はオンラインからオフラインへのシフトが加速しています。

この急速な変化により、特に物流の混乱や人件費の高騰といった問題に繋がり、AppleやAmazon、Shopifyといったコマース企業の業績は伸び悩んでいます。

2021年10-12月以降、AppleやAmazon、Shopifyといったコマース企業がこれらの共通する要因をどのように解決するのか、今後も継続して注視していきたいと思います。

《決算が読めるようになるノート》