三菱商事と伊藤忠商事は、日本を代表する総合商社として、国内外で多角的な事業を展開しています。両社は長い歴史を持ちますが、異なる事業ポートフォリオと戦略を採用し、独自の成長経路を歩んでいます。本記事では、最新決算発表を基に2社の事業比較をしていきます。
三菱商事と伊藤忠商事の概要

三菱商事は、エネルギー、金属資源、インフラ、食品、モビリティなどの分野で幅広い事業を手掛けており、特に資源分野での強みが際立っています。例えば、液化天然ガス(LNG)や豪州での原料炭事業は、同社の収益基盤を支える柱であり、グローバルなエネルギー需要の増大に対応する形で成長を続けています。
さらに、近年では脱炭素社会を見据えた再生可能エネルギー事業への投資を加速させており、風力発電や太陽光発電に加え、水素やアンモニアといった次世代エネルギー技術の開発にも注力しています。このような取り組みは、資源依存からの脱却と新たな成長軸の確立を目指す戦略の一環といえます。

一方、伊藤忠商事は、繊維、食品、住生活、情報・金融といった消費者により近い分野での事業展開に強みを持っています。特に食品事業では、国内外でのサプライチェーンを強化し、小売業との連携を通じて安定した成長を実現しています。
また、繊維事業ではスポーツアパレルブランド「デサント」の買収を通じて市場競争力を高めており、消費者のライフスタイルに寄り添ったビジネスモデルを構築しています。さらに、情報・金融分野ではデジタル技術を活用したサービス提供を拡大し、非資源分野での収益基盤を強化しています。
両社の違いは、事業の展開に明確に表れています。三菱商事は資源を基盤としつつも多角化を進める「総合型」であるのに対し、伊藤忠商事は消費者ニーズに根ざした「生活密着型」の戦略を採用している点が特徴です。
両社の競争環境と市場の立ち位置
総合商社業界は、グローバルな資源価格の変動や経済環境の変化に影響を受ける特性を持っています。特に、原油や鉄鉱石、天然ガスなどの資源価格は、各社の業績に直接的な影響を及ぼし、景気循環に大きく左右される事業であるといえます。近年の環境意識の高まりやデジタル化の進展に伴い、非資源分野での成長が業界全体の課題となっています。
このような状況下で、三菱商事と伊藤忠商事はそれぞれの強みを活かしつつ、競争環境に適応する戦略を展開しています。三菱商事は、資源事業から得られる豊富なキャッシュフローを活用し、新たな成長分野への投資を積極的に進めています。
例えば、再生可能エネルギー分野では、欧州やアジアでの風力発電プロジェクトに参画し、化石燃料依存からの転換を図っています。また、デジタルトランスフォーメーション(DX)にも注力しており、AIやIoTを活用したスマートインフラ事業への展開を加速させています。
対して、伊藤忠商事は非資源分野への依存度を高めることで、資源価格の変動リスクを軽減する戦略を取っています。特に消費関連事業では、食品流通や小売事業を拡大し、安定した収益基盤を構築しています。
例えば、ファミリーマートを傘下に持つことで、日本のコンビニエンスストア市場でのシェアを拡大しつつ、デジタル広告やキャッシュレス決済といった新サービスを展開しています。このような消費者ニーズへの迅速な対応力は、伊藤忠商事が市場環境の変化に柔軟に適応する強みとなっています。
両社の市場での立ち位置を比較すると、三菱商事はグローバルな資源市場での影響力と多角化戦略により「安定性と革新性」を兼ね備えたポジションにあり、伊藤忠商事は国内消費市場での強固な基盤と機動性を武器に「身近さと成長性」を追求しているといえます。
2024年度第3四半期の決算比較
2024年度第3四半期の決算データに基づくと、三菱商事と伊藤忠商事の業績は、それぞれの戦略が反映された形で成長しています。

三菱商事の連結純利益は8,274億円で、前年同期比1,308億円の増加を記録しました。電力ソリューションの国内洋上風力発電事業において522億円の減損損失等を計上しましたが、主に資源価格の回復により大幅な増益となりました。特に、豪州での原料炭事業が好調で、2024年に実施した一部資産の売却益が業績を押し上げました。
また、LNG事業もアジアを中心とした需要増に対応し、安定した利益を確保しています。さらに、非資源分野では食品事業が国内外で成長しており、特にアジア市場での需要拡大が寄与しています。こうした結果は、資源と非資源のバランスを重視する三菱商事の戦略が功を奏しています。

一方、伊藤忠商事の純利益は6,765億円で、前年同期比648億円の増加となりました。増益の主な要因は、食品や繊維といった消費関連事業の堅調な推移です。